折熨斗おりのしとは

折熨斗のルーツは、熨斗鮑のしあわび

「折熨斗」には、折り方や形、色柄、大きさなど多種多様なものがありますが、正確な意味で折熨斗であることの約束事は、ただ一つ。長六角形に折られた紙の包みの真ん中に、黄色い一片の紙(もしくは樹脂)が入っているかどうかです。なぜなら、この黄色い紙こそが、熨斗と呼ばれるようになった原点の「熨斗鮑」を模しているからにほかなりません。

「熨斗鮑」とは、鮑の肉をかつら剥きのように薄く長くそぎ、生乾きのときに竹筒で引き伸ばして、さらに乾燥させたもの。ほのかに海の香りを放ちながら、深い飴色をたたえています。これを切り揃えて束にし、和紙に包んで水引をかけたものを、日本人は古の時代から神饌(しんせん)として、あるいは贈答品として用い、珍重してきました。現在も、この姿を結納品である「長熨斗(ながのし)」に見て取ることができますが、本物の熨斗鮑がほとんど作られなくなったいまでは、その代用として、ビニールや黄色い紙が使われています。

では、なぜ味気ないビニールに代えてまで、「熨斗鮑」はこれほど不可欠になったのでしょうか?鮑は、古代中国では、不老不死の仙薬といわれました。日本でも、鮑は上代人にとって海の彼方の常世から無窮の霊力を授けられた特別な食物でした。これを伸す(のす)ということは、命を延ばす、すなわち〝不老長寿〟につながり、引いては家を延す(のす)、商売を延すなどさまざまな縁起に掛けて、武運長久、無病息災を祈り、正月や結婚、子どもの誕生などあらゆる慶びごとの祝意を表す贈答品になったと言われています。

ちなみに、「伸し鮑」ではなく「熨斗鮑」になったのは、「のす」という語の近さからだと言われますが、「熨斗」とはもともと「火熨斗(ひのし)」の略語で、昔のアイロンを指し、現代中国語でも「熨斗」は、アイロンを意味します。実際、鮑を火熨斗=アイロンで伸したかどうかは、異論のあるところではありますが、シワを伸ばして形を整えるという意味では、“伸し”も“熨斗”も同じといえるでしょう。

熨斗が熨斗であることの証は、紙の包みの中央に、細長い黄色の一片の紙があるかどうか。

正式な折熨斗は、白と赤の和紙で作られています

白い和紙 赤い和紙  慶事には白と赤の組み合わせが基本です。白は清浄、赤は魔を除けるという意味がありますが、陰陽五行でいうところの陰の白と陽の赤の組み合わせは、陰陽和合といって、相互に影響し合ってよい結果が生まれるということを表しています。

黄色い紙(樹脂) 熨斗鮑の代用。黄色い紙またはビニールが使われています。現在、これがないものが数多く出回っているのは残念なことです。

折熨斗の作り方

白い和紙(外)と赤い和紙(内)を重ねて、上を幅広にとって長六角形に折り、真ん中に黄色い紙をはさんで包み込み、金色の帯で留めます。

折熨斗が、 贈答品に添えられる理由

古来から、吉事には必ず「生饌(せいせん)」※生臭もの(魚介や獣肉)をつけるという風習がありました。これとあいまって、霊性を帯びた熨斗鮑は、この生饌を代表するようになったのです。

もっとも、熨斗鮑は希少で高価なので、一般庶民にはなかなか手に入りません。その昔、用意できない家では、鳥の羽根一枚、食した魚の尾を干して乾かし、裂いたもので代用したそうですが、その後さらに形式化、大衆化して、極まった形が、いま私たちにも馴染みのある「折熨斗」なのです。

折熨斗のこの形が、いつ、どのようにできていったのかは、あまり定かではありません。しかし、この小さな折熨斗の包み方や形や色のなかに、かつて熨斗鮑が贈答品として使われていた頃からの、心遣いの精神が息づいています。鮑の霊性、その鮑を「伸す」ことに込めた人々の願い、祝い慶ぶ気持ちは折熨斗に託されて、贈り主から贈られる相手に届けられます。

◎ 熨斗鮑
日本全国津々浦々、鮑の産地である土地では、古来、さまざまな製法で熨斗鮑が作られてきました。現在でも、熨斗鮑の由来とも言われる伊勢神宮への献上品は、三重県鳥羽国崎(くざき)町で古式に則った「国崎熨斗鰒(のしあわび)づくり」において作られています。